幕が上がって最初の5分もしないうちにスーザン・グラハム(Susan Graham)が歌うアリアで、このオペラの成功は99パーセント約束されました。
スーザンの美しい声と、確かなコントロール! 人の気持ちを変えることは誰にもできないという認識がありながらも、自分のことを好きではない人に、自分のことを好きにさせるのは自分の生まれながらの権利と思っている、わがままな王様を堂々と、軽快に演じる、宝塚の男役並みの演技力。三拍子そろってます! でもスーザンの最大の特徴は、複雑な感情を、声に込めて表現できることでしょう。
下にリンクしたビデオクリップで、スーザンがどのように丁寧に歌っているかが見られます。
品位と、優雅さと、性格の良さが出てる、スーザンならではのクセルクセス(Xerxes)王。背が高いのも幸いしてるんですね。衣装も、そういう王様をばっちりサポート。
サンフランシスコ・オペラには「メロラ・オペラ」という、オペラ歌手になりたい人のための養成コースがあるんですが、スーザン(NYのメッツ所属)も、そこの卒業生なんですね。だから、わりとよく、サンフランシスコに来るのかもしれません。ありがたい事です。
以前に「ウェルテル」に出たハイディ・ストーバ(Heidi Stober)もよかったです。
ディビッド・ダニエル(David Daniels)はずいぶん前に、ジュリオ・シーザーを、ルース・アン・スワンソンのクレオパトラで歌った事があるんですが、当時に比べて声も伸び、ものすごーく上手になってました。カウンターテナーでは、押しも押されぬ、世界のトップになってるんですね。
今回の話題は、ロミルダを演じたリセッテ・オロペサ(Lisette Oropesa)でしょう。声もいいし、パワーもあり、遠慮なく演技力を発揮してますが、やはり経験が浅くて、声が一本気、感情を歌で表現するということは、まだまだです。あまり私の好きなタイプじゃないですが、順調に行けば、これからのアメリカのオペラを支えてゆく一人でしょう。最近オペラに出てくる若い歌手は、全体に水準が高いです。
舞台: ゴルフのパットの室内練習用グリーンみたいな芝生の色はあまりにチープで私の好みじゃないですが(下の写真の絨毯を参照してください)、わざとそういう色を使ってるんだと思います。ギリシャの時代劇をヘンデルの時代の衣装で上演するという伝統にのっとり、ギリシャ的なものとはちぐはぐな物を、わざと舞台で使うという、川柳的趣向だと思います。その結果が、第二幕の屋外喫茶店風の舞台、第三幕では、サボテンの鉢が舞台にゾロリ。このサボテンの場面、気に入りました。(下のビデオ・クリップ参照)
遠景は三幕とも同じで、アリゾナというか、ネバダというか、そういう風。どこまでも続く青い空と、茶色のプラトーと砂漠と乾いた空気という景色。ギリシャだか、メキシコだかの古い遺跡の跡が小さく見えます。
衣装は舞台の登場人物をうまく支えています。
写真: 舞台の雰囲気。向かって右がアトランタ役のハイディ・ストーバ、左がロミルダ役のリセッテ。向かって左のメジャーでない登場人物は、皆、上から下まで、メークアップを含めて灰色。貴族や兵士の役をやっているコーラスの人たちです。
ヘンデルのオペラは、歌声を楽しむオペラ。登場する人が皆、美しい声をしてるし、演技力があるので、この喜劇、十分に楽しめます。今シーズンのベスト(「戦士の心」を除いて)。
初日のビデオ・クリップをリンクしておきます。一番最初に歌ってるのがスーザン。次が、サボテンの鉢の舞台で歌うディビット。その次がパワフルなリセッテ、続いてスーザン。
新聞のレビューのリンクはこちら、写真はこちらで見てください。
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