2011年3月27日日曜日

ブリテンの「ルクレティアの陵辱」

去年、バークレーのゼラバック・ホールで見た、「バリ島の家(House in Bali)が面白かったんで(去年見たオペラの中では、歌力は劣るとはいえ、一番、面白でした)、ゼラバックには、グッドなプログラムを選ぶ力があるとみて、今年はブリテン作曲、「ルクレティアの陵辱」を見に行きました。で、予想通り、予想外に良くて大満足!

「ルクレティアの陵辱(Rape of Lucretia)」は、絵の題材にもなってる有名な話なんですが、私には個人的な思い出があります。アメリカの大学に入って間もない頃、必要に迫られてとった、英文学のクラスかなんかの最初の課題がこの本。全然わからなくて、「なんでこんなの読むの?」今回、プログラムのイントロを読んで、はじめて、話の内容がわかった次第。もっともオペラとお話は違いますけど、だいだいは同じ。

コラティヌス(Collatinus)とユニウス(Junius)とタルクィニウス王(Tarquinius)が戦争の陣中で、妻たちが何をしてるか気になり、使いを送って調べると、コラティヌスの妻のルクレティアだけが貞淑にしてるのがわかります。当時、上流階級の妻は、旦那がいなくなると、好きなことをやるのが常識。ユニウスとタルクィニウス王は、美しくて貞淑な妻を持ったコラティヌスに嫉妬をいだきます。

タルクィニウス王は嫉妬心を押さきれず、ついに陣中から馬を疾駆してローマへ戻り、留守宅のルクレシアを訪問、泊めてくれるように頼みます。悪い予感がしたんですが、王の要求を断る訳にはいかず、ルクレティアは王をゲスト用寝室へ案内。その晩、タルクィニウス王は、ルクレティアの寝室に侵入、夫と勘違いはしたんですがすぐに間違いに気づきますが、強姦されてしまいます。

翌朝、直ちに帰宅するようという妻の伝言を受けたコラティヌス、ルクレティアからすべてを聞き、嘆く妻を、「体は奪われても、心を奪われたわけではないので、忘れよう」と慰めますが、ルクレティアは「盆からこぼれた水は元にはもどらず」と嘆き、その場で自害してしまいます。

これを見ていたユニウス、タルクィニウス王(エトルリア人)の、ローマ人を抑圧する横暴政治はもうたくさんと、ローマ人に剣を持って立ち上がるよう呼びかけるところでオペラは終わりますが、この事件、共和制ローマ建国のきっかけとなったと言われてます。

舞台ですが、ステージングは素晴らしく、ディレクター(William Kerley)の力に感服しました。特に、悪い事をするのがわかってるが自制できずに、馬に乗って急ぐタルクィニウス王(2009年フィラデルフィアのがあったんで参照にリンクしておきます)、王がルクレティアの部屋へ忍び込む様子、さらに強姦のおこる場面は、ミニマリズムのさっぱり表現ですが、話を熱く語り継いで、観客の注意をそらしません。

若くてフィットな歌手も、全員が思った以上の歌唱力。なかでも、タルクィニウス王を演じたマシュー・ワース(Mathew Worth)は実力ありで、いずれはサンフランシスコ・オペラにも出るようになるかも。

さらに、カラフルな花を使って、暗い話を、必要以上に暗くしない気遣いなど、全体がうまく相乗して、ローマ共和制建国伝説を語るのに成功。

リンクしたYoutubeから。タルクィニウスが馬に乗ってローマへ疾駆する場面。背中がロープで後方につながれてます。やってはならないという意識をロープで表し、そのロープに反して、疾駆する王の心理状況がうまーく描かれてます。

楽器の使い方も面白かったです。携帯電話の呼び出し音みたいのが聞こえたので、誰かが携帯をオフにするのを忘れたのかなと思いましたが、ハープでチョロリ、チョロリと出してる音とわかりました。

上でリンクしたビデオをみると、最後のところでハープのチョロリが聞こえます。

2011年3月21日月曜日

バレンシンの「コッペリア」

マリア・コチェトコワ(Maria Kochetokova)がスワニルダ、彼女に惚れてるフランツは、ゲナディ・ネドビギン(Gennadi Nedvigin)、また「コッペリア」という名の人形を作った、コッペリウス博士は、デミアン・スミス(Damian Smith)が演じる、とっても楽しい、初日の公演でした。

コッペリウス博士が、コッペリアをベランダの外に出したところから、お話が展開。

見た事も無い少女が、コッペリウス博士の家のベランダで本と読んでいるのを、最初に見つけるのはスワニルダ、声をかけますが、返事もしません。

つぎにコッペリアを見つけるのは、スワニルダに会いにきたフランツ。スワニルダがいないと思って、ベランダの美少女に、投げキッスを送ります。それを物陰から見ていたスワニルダはムカッ、急に、フランツに冷たくなります。

しかしそれにしても変だと思ったスワニルダは友達と一緒に、コッペリウス博士の家にこっそり侵入、それとは別に、フランツも、窓にはしごをかけて侵入。そして珍事が始まります。

このバレエ、衣装がものすごく可愛い! 特にスワニルダのピンクの強い紅色のドレス(下の写真参照)は、上にかぶさったベールが玉虫色に輝いて、コッペリアの不思議な世界へいざないます。村の人たちの衣装も、第三部の「夜明け」を踊る、サラ・バン・パタンの衣装も、「祈り」を踊る、シルビの衣装も、同じ材質を使っていて、ちょっと不気味さもある童話と現実の境の話という雰囲気を盛り上げます。
スワニルダのジャンプ。SFGateの写真から。

またマリア・コチェトコワの演技もなかなかで、サンフランシスコ・バレエでは、彼女が一番ぴったり合う役という感じ。

ゲナディは、数年前に整形手術をしたと思うんですが、カタログの写真は前のまま。こんなに演技が堂に入ってる彼を見るのは初めてなので、びっくり。初日の主役に抜擢されたので、やる気満々なのかもしれません。サラもそうですが、こういう抜擢で、実力がばーんと伸びるダンサーがいるのは確か。

マリアとゲナディが凄かったのは、第三部。マリアが勢いをつけてゲナディの腕に飛び込み、捕まえたゲナディがぐるりと回転させて、マリアの頭が舞台、トーシューズが天井。これだけ度胸のすわった飛び込みは、普通ではなかなか見られません。それを2回もやったんで、ゲナディの評判ががーんとあがったんだと思います。マリアのパフォーマンスは、今までの彼女の最高。度胸もつき、どんどん上手になっています。

子供にも大人にも楽しいバレエ、第三部では、ピンクのチュチュを着た子供たちがたくさんでてきて踊るので、観客の子供たちもけっこう静かにして見てます。

SFGateの評論のリンクが変でしたが、上のタイトルをクリックすると、エンクロージャ・リンクになってるので、見られます。

評論はいいけど写真だけ見たいという人は、こちらをクリックしてください。SFGateにリンクが変だとメールしたんですけど、半分だけなおってる感じ。いろいろクリックすると全部の写真を大きくしてみられます。

踊りの入ったビデオが見つかったのでリンクしておきます。(2/20/2012)

2011年3月13日日曜日

地震のお見舞い状

皆様

友達からいただいた3月10日付けFacebookコメントに、「地震のあとかたづけ」と書いてあったので、そんなにひどいとは思わず、東京の家族や親戚に電話したところ、電話が通じないので、初めて何かが起こった事に気づきました。すぐにFacebookに戻り、友達との交信を続けながら、NHKのニュースがインターネットにアップロードされているのを見つけ、大地震の状況を知りました。翌日、母と話す事ができるようになるまで、不安を大きくさせずに済んだのは、ひとえに友達の、コンピュータラインの向こう側からの、冷静な応対のおかげです。深く感謝しております。

大地震と津波の状況がもっとはっきりとわかるようになるにつれ、日本にいる皆様の不安の大きさは想像すらできませんが、もしかして被災地、またその近くにご親戚やお知り合いのある方がおられるかもしれないと思い、何もできませんが、ブログを送信することにいたしました。

余震や津波はすぐには終わらないようですが、皆様が気持ちを強くもって、ご無事に、この大災害を乗り切ってくださることを、心から、せつにお祈りしております。

2011年3月7日月曜日

ケネス・マクミランの「冬の夢」

サンフランシスコ・バレエのプログラム4は、チャイコフスキーの音楽づくし。

どの順番でダンスを披露するのか、公演が始まった後でも、もめたようですが、私が見たときは、最初が、バレンシン(George Balanchine)の、「テーマとバリエーション(Theme and Variations)」。元気のでるバレエ。でも見てると難しそう。サンフランシスコ・バレエが去年撮ったビデオをリンクしておきます。

2つ目が、故ケニス・マクミラン(Kenneth MacMillan)が振付けした、「冬の夢 (Winter Dreams)。」 人生は、だいたいうまくいかないものというテーマを、チェイコフの3姉妹のストーリーで、美しく、物悲しく、ちょっとユーモアを絡ませて展開します。

この日、若い軍人に惹かれる人妻マーシャを演じたのがサラ・バン・パタン(Sara Van Pattan)。実は、あまり彼女は好きじゃなかったんですが、今シーズンのサラはすごく変身してて、前よりかずっと優雅に動くようになってるのに驚きました。腕の動きとか、体の伸ばし方、動きに、もっと注意が払われているような感じ。「ロミオとジュリエット」でジュリエットを演じたとき、新聞に「ピザ屋でピザを食べてきたようなジュリエット」みたいなことを書かれたのに憤慨して(当時は、辛辣だけど、まったく大当たりの批評!)、大発奮して演劇などを勉強したのかも。

彼女は、ビクトリア時代の女性を演じるのが合ってるのかもしれません。

ところでマクミランの振付けの一つに、エリート・シンコペーション(Elite Syncopations)というのがあるんですけど、アワワワッと思わせる、ユーモアたっぷりのコスチュームの、楽しい作品。ときどき見たい作品です。興味のある人のためにリンクしておきます。

最後は、サンフランシスコ・バレエのディレクター、ヘルギの作品、「トリオ」。私は彼の作品は興味ないんですが、悪くありませんでした。

「冬の夢」と「トリオ」は多分、来年も上演されます。

なおタイトルをクリックすると、プログラム4の写真が5枚みられます。

ウィーン・フィルハーモニーのバークレー公演

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のバークレー公演に行ってきました。指揮はセミョン・なんとか(Semyon Bychkov)という人。2月26日の、ブラームス交響曲第二番と、シューマンの交響曲第二番です。

昨今は、前からそんなには行ってない楽器の演奏会にはほとんど行かなくなっちゃんたんですけど、ウィーン・フィルハーモニーが来るなんて珍しいので、やっぱりこれはスペシャル・オケージョンと思ったわけです。

彼らの演奏は、オペラと一緒、各楽器の音色が感情がこもっていて、それが私の心に伝わってくるようで、よかったです。

実際は夜なんですが、気持ちのいい日向で、美味しい紅茶を飲みながら演奏を聞いてるような気がしました。

アンコールに答えて、ブラームスのハンガリアン・ダンスを演奏したんですが、目をつむっても演奏できるよというぐらい、弾き込んでるというか、体内に浸透していて体の一部になってるという感じ。今回の演奏旅行では、このあたりをちょっと、長めに弾いてみようというような感じで、楽しみながらやってるんじゃないかと思います。

キッチンで、なんか美味しい物を作ってるような感じの親近感を感じさせるアンコールでした。