2011年11月20日日曜日

アニタ・ラチベリシビリの「カルメン」、ダイナモ!

幸運!

本当はケイト・アルドリッチ(Kate Aldrich)がサンフランシスコ・オペラの「カルメン」をやる予定だったんですが、妊娠で欠場。で、アニタ・ラチベリシビリ(Anita Rachvelishvili)という人が代役、それが、それが、それが、ものすごい幸運なことにダイナマイト! 

最初のアリア、ハバネラの出だしの一声で、オペラハウスの観客が、「すごいカルメンを聞けるのでは?!」と直感、場内に、急にピーンとした空気が張りつめます。緊張の静けさで一杯の場内は、喉が乾ききった、巨大な空のコーヒーカップのよう、そこへ赤銅色の妖しくも温かく光る、類いまれな響きと力と深さを持った声が、こんこんと注がれたのです。私の斜め前に座っている女性のあごが、文字通り、驚きで下へガクンと落ちるのが見えました。

Youtubeで見つけたアニタのハバネラをリンクしておきます。どこでいつ上演されたのかわかりません。衣装がとてもドンクサ。サンフランシスコのは、2009年7月の、スカラのアニタの衣装ほどモダンではないけど、最初のリンクのよりかはぜんぜんまし。当時のたばこ工場のもようを、時代により忠実に再現したような衣装やセッティングでした。

この写真は、サンフランシスコのカルメンではなくて、こちらのカルメンからスクリーン・ショットで撮ってきたんですが、アニタのカルメンの雰囲気が似てます。リンクしたハバネラも聞き物。ここでの声が一番、私の聞いたのに近いと思います。

このあとアニタが「セギディーリャ」として知られてる唄を歌うんですが、スカラのをリンクしておきます。

第二幕の酒場のシーンの唄。アニタが踊りながら歌うんですが、頭や手や腰の振り方なんかそっくり。サンフランシスコでも、ホセと舞台で横になって、映画なみの愛情シーン。・カルメンになりきる度胸のある、グルジア出身の現代っ子歌手。

彼女の素晴らしいジプシー・ソング。ベルリン国立オペラ公演。ますます大舞台なれしてきてるのがわかります。

同じくベルリン国立オペラからのカード占いの唄ハバネラ

アニタの唄を聞くだけで、十分に価値ある舞台。彼女のカルメン、大きくお薦めです。


あとは、ホセの婚約者、ミカエラを演じた、アドラー・フェローのサラ・ガートランドがよかったです。

11月22日:新聞にアニタのカルメンのレビューと写真が出てるので、リンクしておきます。

2011年11月6日日曜日

サンフランシスコ・オペラの「クセルクセス王」

幕が上がって最初の5分もしないうちにスーザン・グラハム(Susan Graham)が歌うアリアで、このオペラの成功は99パーセント約束されました。

スーザンの美しい声と、確かなコントロール! 人の気持ちを変えることは誰にもできないという認識がありながらも、自分のことを好きではない人に、自分のことを好きにさせるのは自分の生まれながらの権利と思っている、わがままな王様を堂々と、軽快に演じる、宝塚の男役並みの演技力。三拍子そろってます! でもスーザンの最大の特徴は、複雑な感情を、声に込めて表現できることでしょう。 

下にリンクしたビデオクリップで、スーザンがどのように丁寧に歌っているかが見られます。

品位と、優雅さと、性格の良さが出てる、スーザンならではのクセルクセス(Xerxes)王。背が高いのも幸いしてるんですね。衣装も、そういう王様をばっちりサポート。

サンフランシスコ・オペラには「メロラ・オペラ」という、オペラ歌手になりたい人のための養成コースがあるんですが、スーザン(NYのメッツ所属)も、そこの卒業生なんですね。だから、わりとよく、サンフランシスコに来るのかもしれません。ありがたい事です。

以前に「ウェルテル」に出たハイディ・ストーバ(Heidi Stober)もよかったです。

ディビッド・ダニエル(David Daniels)はずいぶん前に、ジュリオ・シーザーを、ルース・アン・スワンソンのクレオパトラで歌った事があるんですが、当時に比べて声も伸び、ものすごーく上手になってました。カウンターテナーでは、押しも押されぬ、世界のトップになってるんですね。

今回の話題は、ロミルダを演じたリセッテ・オロペサ(Lisette Oropesa)でしょう。声もいいし、パワーもあり、遠慮なく演技力を発揮してますが、やはり経験が浅くて、声が一本気、感情を歌で表現するということは、まだまだです。あまり私の好きなタイプじゃないですが、順調に行けば、これからのアメリカのオペラを支えてゆく一人でしょう。最近オペラに出てくる若い歌手は、全体に水準が高いです。

舞台: ゴルフのパットの室内練習用グリーンみたいな芝生の色はあまりにチープで私の好みじゃないですが(下の写真の絨毯を参照してください)、わざとそういう色を使ってるんだと思います。ギリシャの時代劇をヘンデルの時代の衣装で上演するという伝統にのっとり、ギリシャ的なものとはちぐはぐな物を、わざと舞台で使うという、川柳的趣向だと思います。その結果が、第二幕の屋外喫茶店風の舞台、第三幕では、サボテンの鉢が舞台にゾロリ。このサボテンの場面、気に入りました。(下のビデオ・クリップ参照)

遠景は三幕とも同じで、アリゾナというか、ネバダというか、そういう風。どこまでも続く青い空と、茶色のプラトーと砂漠と乾いた空気という景色。ギリシャだか、メキシコだかの古い遺跡の跡が小さく見えます。

衣装は舞台の登場人物をうまく支えています。
写真: 舞台の雰囲気。向かって右がアトランタ役のハイディ・ストーバ、左がロミルダ役のリセッテ。向かって左のメジャーでない登場人物は、皆、上から下まで、メークアップを含めて灰色。貴族や兵士の役をやっているコーラスの人たちです。

ヘンデルのオペラは、歌声を楽しむオペラ。登場する人が皆、美しい声をしてるし、演技力があるので、この喜劇、十分に楽しめます。今シーズンのベスト(「戦士の心」を除いて)。

初日のビデオ・クリップをリンクしておきます。一番最初に歌ってるのがスーザン。次が、サボテンの鉢の舞台で歌うディビット。その次がパワフルなリセッテ、続いてスーザン。

新聞のレビューのリンクはこちら、写真はこちらで見てください。