2010年9月20日月曜日

絶賛、ジュール・マスネの「ウェルテル」

サンフランシスコ・オペラ、2010年、秋の公演が始まったんですが、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」をもとにした、「ウェルテル(Werther)」は、すっごくよい出来!!

まず第一に、出演者のほとんど全員が、最高のパフォーマンス!

シャーロッテを演じたアリス・クーテ(Alice Coote)。今回が3度目のサンフランシスコ・オペラ出演なんですが、歌手として、今が最も円熟している時ではないかと思います。深ーい響きのある歌い方で、耳経由でなく、直接、体の中に入ってきて、心の壁をノックしてやまない感じ。滝になったり、せせらぎになったり、しぶきをあげたり、鏡のようにまわりの景色を映したりする、流れのよう。

「ウェルテル」はかなり近代的なオペラで、シャーロッテは、愛を打ち明けられてあせったり(「私のこと何も知らないのに、どうしてそんなに愛せるの?」)自分の気持ちを否定したり(「私にはフィアンセがいる!」)、ウェルテルの心配に捕われて取り乱し、夫をしらけさせたりという、心の動きの表現が求められるんですが、アリスは、声と演技でやってのける、大変な演技派。

シャーロッテの妹、ソフィイを演じたハイディ・ストーバは、サンフランシスコ・オペラは初出演なんですが、嬉しい事に、アリスに、十分に太刀打ちできる声の持ち主。

写真はシャーロッテとウェルテル。サンノゼ・マーキュリー・ニュースから。

前回、グノーの「ファウスト」で、バレンティンの役をやったブライアン・ムリガン(Brian Mulligan)が、シャーロッテのフィアンセ/後に夫役で、揺るぎないパフォーマンス。

ウェルテルを演じたメキシコ人テナー、ラモン・バーガス(Ramon Vargas)は、絶賛を受けてました。一幕目、アリア数曲のしめくくりが、ちょっとずれるような気がしたんですが、2幕目が進行するにつれ、迫真の演技。

リブレットもよかったです。「君の瞳はボクの地平線」とか、恋をしてる人にしか言えないような台詞が一杯。

ウェルテルは初めて聞くんですが、オーケストラも凄く良かったです。曲の流れや、楽器の使い方が(どこにどの楽器を使う)大変面白いだけでなく、個性のある音色の楽器を使って舞台を進行させるので、上の4人に加えて、5人目の登場人物であるかのような感じ。

ゲーテのオリジナルは読んだ事はないんですが、このオペラを見ると、結構おもしろそうなので、学生のころ、読んどけばよかったと、ちょっと後悔。

ビデオクリップをリンクしておきます。最初の二つがラモン・バーガス、次がアリス・クーテで、オーケストラの面白さがちょっと味わえます。赤いドレスを来たのがハイディ・ストーバ、次が夫役を演じる、ブライアン・ムリガン。

心と外界を舞台化したような、地下と地上のある舞台。地下でウェルテルの心の動き、地上はシャーロッテとの関係や、2人をとりまくまわりの環境が表現され、うまく作ってあると思いました。ただ、根元が銀で、葉っぱがスクリーン・ディスプレイの木、もうちょっとなんとかならないかな。例えば、スクリーンをもっとおっきくし、緑の美しさを強調するとか...

私はアリスに最大の拍手、オーケストラと指揮者のエマニュエル・ビローメ(Emmanuel Villaume)にも、次の最大の拍手を送りたいと思います。