2013年10月19日土曜日

Kカンパニーの「白鳥の湖」

日本では初めてのバレー、Kカンパニーの初日の「白鳥の湖」を東京文化会館で見てきました。

しょっぱなのオーケストラで管楽器の音が「ギャー」と響いてえらく度肝を抜かれました。大きめの管楽器は難しいのかなー。でもいつ聞いても美しく、若々しいところのある曲です。

Kカンパニーの熊川哲也さん、パフォーマンスは全体的に爽やかで、ジャンプも軽快、第一幕では王子様の青年らしい悩みなどがよく表現されててよかったです。お妃候補たちの踊りの後、お妃選びのために一人一人のお姫様を王子様が見るところがあるんですが、その目差しが、ダンサーに対して「今の、よかったよ」って言ってる感じで、この人、自分のカンパニーの人達の踊るのが本当に好きなんだなって思いました。また舞台が住処か、住処が舞台かというぐらい舞台になじんちゃってて、パフォーマンスの最中、無意識にちょっと足を組んでタバコでも吸うんじゃないかと思うほど。第二幕で着ている王子様の衣装なんかまるでTシャツを着てるみたい(もしかしてコスト節約の一環かも)。こういう感じが出てくるのはベテランだからなのかもしれません。マリンスキーのダニラ・コルスンツェフ(Danila Korsuntsev)のベテラン性にもそんな感じがしました。

コールドバレエも4人とか8人のグループの踊りも良かったです。でも時々グループの踊りでは、体の動きが全員小さくまとまりすぎてるかなって思うところがありました。踊りはそろってるんですけど。もしかしてこれは日本という文化に規定されてしまってる「女」という「体」が踊るせいなのかもしれません。日本の文化は体の大きな動きを「品がない」として嫌うということもありますが、場所が物理的に狭いので、日常から自然に体を小さく動かす訓練が日常的にされちゃってると思います。

「黒鳥/白鳥」は「キャラクターが作れてないな」って感じました。2羽の白鳥や四羽の白鳥は悪くないのに、キャラクターを作ってストーリーを語るというのは一段上へ飛ぶリープが必要なのかも。

魔法使いロットバルトの後からの黒鳥の登場とか、オディール・バリエーションは、実際で見たのは初めて。また王子がロッドバルトに2度にわたって「神にかけて愛を誓え」と迫られ、ためらいをふりきってオディールに愛を誓うというストーリー展開を見たのは初めてでした。こっちの方が、王子を大人とみなすと、プロットとして納得がいくし共感がわきます。

舞台は2幕目の宮殿の上からつりさがってる金色の飾りみたいなのがよかったです。白鳥達の衣装はオデッタと差別化するためでしょうか、でも何かもたもたぎみの感じがしました。

ロッドバルトを演じた人、何となくマシュー・ボーンのバレエ・カンパニーを思い出させる体でした。

ベンノを演じた井澤諒さんもすがすがしく、また二羽の白鳥や四羽の白鳥もよかったです。

久しぶりのバレエなのでエンジョイしました。

2013年10月6日日曜日

中之条ビエンナーレと四万温泉

群馬県の中之条で現在進行中の「中之条ビエンナーレ」へ。私の英語のスキルをボランティアで提供したかったので主催者側にコンタクトして行ったんですけど、よかったぁ。

ビエンナーレ本部事務所を兼ねた中之条町の展示場「SATORI」でおずおずと見習い案内人から始め、次の日ははやくも一人立ちして、中之条町内の旧六合村(くにむら)で案内人兼番人をやりました。これは主催者と地元のボランティアさんの配慮のおかげで、中之条町エリアと六合エリアの作品はボランティアをしてる間に一応全部見る事ができました。四万温泉エリアはボランティアを終えた翌日に行きました。

美術館をとびだし、人々の生活領域に入ってきて展示されると、作品がのびのび、見る方ものびのびで、こういうやり方は思いのほかよかったです。緩く曲がった道路伝いに古い民家がひょいひょいと見えてくる道を歩きながら、場所を提供してる民家に上がって見てくというのが意外にいい。始めは靴を脱ぐのが面倒くさかったんですけど、そのうち、家を訪れる感覚になり、次に来るときは、はいたり脱いだりしやすくて歩きやすい靴で来ようなんて、いつのまにか思ってました。

稲刈りが到着の翌日から始まりました。地域の人が共同作業してるのを目にして、人々の助け合いが必要条件の村の生活のただなかで、自己や自我を表現するために孤独も物ともせず的な作品を見てるとなんか始めはそぐわない感を抱きましたが、黄金の稲の垂れ穂がそんな違いは小さい、小さいと言わんばかりの圧倒的な量感であちこちを覆ってます。これが農家の作品ですね。

元呉服屋さんだった建物、SATORIの二階に女の子の大きな顔の絵。通常は私の好みじゃないんですけどよかった。この良さの50パーセントは、元呉服屋さんの低い天井と畳、今まで見た事無い装飾の鴨居で仕切られた静かな空間に、作品がはまってることから来てるのは確か。古い民家のつくりが貢献してるって強ーく感じました。作者はそんなこと聞いたら嫌がるって思うけど、これだけの力は画廊に置いただけでは得られないですね...

SATORIのそばの旧廣盛酒造に、ゴールデーンゲート・ブリッジのようなガラスとメタル製の大きな吊り橋の作品。それだけだったら心に残らないと思うんですけど、キューンという金属的な音が吊り橋の起伏に合わせて走ったとき、「あーっ!」ってイメージが湧きました。作者は小さめの窓からの外光を希望に見立てるイメージのようでしたが、私のはその逆で、明るい外から細くて不確かな橋を伝いながら暗闇に下降してゆくストーリー。古墳内を下って行くような感じです。音が暗闇の中で遠近感を出すのに成功。酒造の空間をうまーく使った作品、もともとの壁の色も過ぎ去った長い年月を感じさせます。

残念ながらカメラ持ってくの忘れたんで、中之条ビエンナーレのサイトからのスナップを拝借。藤原京子さんの「ビフレストー橋」の完成前の写真。酒造はこんなに明るくないです。音が作品に生命を与えてるって感じ。

六合村では高野長英の隠れ家が展示場の一つ。隠まった村の医者が残した押し花が圧巻・感動でした。今も色が残る200年前の押し花、医師作家の草木とむかう静かな時間が感じられます。この押し花がいつまでも残る事を祈ります。(国立博物館、なんとかせよ!)

四万温泉エリアでは、裸の男の人が3人、プールで泳いでるビデオが意に反して面白かったです。なんつーか、ランダムに泳いで画面に入ってきたり出たりするのがめだかのようでもあり精子のようでもあるのが。ビデオの質はよくないんですけど、そこが懐メロチックな雰囲気を出してました。

膝丈ズボンをはいた、子グマのプーさん的な伯爵綽々(はくしゃく しゃくしゃく)さんという人を滞在中2度も別々の場所で見かけ、何者なのかなーと思ってたら歌人でした。伯爵さんの短歌をいくつか書き留めておいたんですけど、紙をなくしちゃったみたい。六合村が中之条町に吸収されたことや、かいこの桑の葉を食べる音が響く静かな午後のことなどでした。

この滞在をすごくよいものにした最後のとどめは、美しいの四万川と川沿いの豊富な湯量の四万温泉。たっぷり浸かっていい気持ち。積善館のそばのおそばは腰があって美味しかったです。