2015年12月11日金曜日

2015年マリンスキーの「ロメオとジュリエット」

東京文化会館の11月30日のに行ったんですけど、ウラジミール・シクリャーロフ君(Vladimir Shklyarov)が11月28日の「愛の伝説」で怪我をして休演、多分、アリーナ・ソーモワ(Alina Somova)も、そのさいの余波で不調になったのかもしれませんが、以降、ずっと休演。バークレー以来のお二人のダンスを、特にアリーナの成長が見られると思っていたので、すごく残念!

代役はジュリエットがマリーヤ・シュリンキナ(Maria Shirinkina)、ロメオがフィリップ・スチューピン(Philipp Stepin)。マリーヤ・シュリンキナのことは以前、これからの星として期待されてるような事、聞いた事がありますが、ロメオ役の人は今回が初めて。

マリーヤのジュリエットはまだ、一生懸命、役作りしてる最中という感じでした。もしアリーナがやっていたら、もっとのびのびと、そして多分違った衣装を着て出て来るのだろうと思いました。マリーヤのはあまりに目立たない衣装でした。全体に、主役としての華やかさというか、オーラが欠けてる感じ。しかし特に難もなく踊ってました。数年したら、マリンスキーで期待される一人になる人だろうと思います。

なんとなくぱっとしない配役陣中で全体をひっぱり、抜きん出て上手で、マリンスキーを救ったはマキューシオ役をやったアレクサンドル・セルゲーエフ(Alexander Sergeyev)。ひょうきんでウィットのあるマキューシオを、技術的にも素晴らしく、愉快そうにやってくれて、見てるのが楽しかったです。彼が白鳥の湖の王子役をしたのをみたことがありますが、こういう役の方がピッタリ。彼がジャンプしたとき、もしそのつま先が私のあごにでもぶつかったら、あごの骨は粉々になっちゃうんじゃないかと思うほどのバネ力でした。

配役としてぴったりと思ったのは、ティボルト役をやったユーリ・スメカロフ(Yuri Smekalov)。すごく個性的な雰囲気の人で、攻撃的でけんか好き、力にすぐ訴える役にぴったりでした。

マリンスキーの「ロメオとジュリエット」を通しで見るのは初めて。バレエとしてのロメオとジュリエットとしては、わりと原作に近いんじゃないのか、そういう意味では古典的と思いました。2人の情熱的な出会いと心の交流を緯糸に、生と死という永遠の大テーマを同じ比重でからませて縦糸にし、ストーリーを展開してるという感じでした。

私がよく見たサンフランシスコ・バレエの「ロミオとジュリエット」では、出会いの奇跡、2人だけの世界と愛の感動を描く「生きる」がメインテーマで、死という要素には話を展開するのに必要な以上は触れず、もっと現代的なストーリーの展開でした。古典的なマリンスキー版を見て、なぜ「ロメオとジュリエット」は、いろんな人が新たなバージョンを作りたくなるのか、納得しました。

ジュリエットの居城でのパーティ場面は、家父長(パトリアーク)とその一族男性が、ストラビンスキーの力強く運命的な音楽に合わせて、体の脇につけて真っすぐに延ばした手の掌を威嚇的に開いて出てくるサンフランシスコ・バレエの振付けの方が、いかにも家父長制権力を象徴してるようで、私は好きです。

ロメオが百合の花を教会の床に並べてジュリエットを迎えるバージンウォークのところは、なんとなく暗い場面が一瞬明るくなるようで、マリンスキーの方の演出がよかったです。

2015年8月6日木曜日

ボリショイのドンQ by エカテリーナ・クリサノワ

本当はスベトラーナ・ザハロワの「白鳥の湖」が見たかったんだけど券すべて売り切れ。そこでツィッター仲間でニューヨークの在住のバレエ狂が見てよかったと言ってたミカエル・ロブーヒン(Mikhail Lobukhin)がエカテリーナ・クリサノワ(Ekaterina Krysanova)と演じたドンQを東京文化会館に2014年12月に見に行きました。(実は、彼は、ABTの方が上手って言ったんですけど...)

演奏はビューティフルで心に残り、それだけでも満足できる出来映え、おかげでやはり心のなごむパフォーマンスでした。しかし、エカテリーナ・クリサノワは、何かがまだ欠けてる感じ。もしかして、キトリを踊っていても、終止、エカテリーナだからかも...

演出なんですけど、バジルが死んだふりをしながら、キトリの胸を触ったり、キスしたりする最後の場面。あの場面、長過ぎる。昔だったらああいうのは、やればやるほど笑いを誘ったんだろうと思いますけど、今は現代なんですから、二回だけで十分。それ以上は興ざめ。

2015年6月22日月曜日

スベトラーナとロバート・ボレのジゼル

スベトラーナ・ザハロワ(Svetlana Zakharova)のジゼルを見たのは今年の3月。ユーポートホールで見たんですけど、いまだに思い出してるんで、書いておく事にしました。

彼女の腕の動かし方(三角筋とか上腕三頭筋とか...:彼女のおかげで筋肉名を知ったんです)、体の向きや静止、動かし方を含めてのコントロールは素晴らしく、それらの動きの連続として優雅さと気品が生じるんです。群を抜いた素質と努力の結果なんでしょうけど... 最初から最後までうっとりでした。

ただ一カ所、こうすればもっとよくなると私が思う点、ザハロワだからこそちょっと残念に思った点は... 第二幕で、ジゼルのお墓を訪れたアルブレヒト公爵(ロバート・ボレ)がジゼルの幽霊と踊る場面。 ボレがスベトラーナを後からホールドして、ジゼルが空中を飛ぶかのように舞台を右から左へ、左から右へとクロスしてゆくところがあるんですが、そこのところの一瞬の足の動かし方、それがなかった。

体をつり上げられて行く瞬間、惰性によって足が行き先とはちょっと反対方向へ動く表現をすると、一瞬にして魔法がかかったかのように、舞台がするりと超自然的な事が起こる不思議な世界に変わってしまいます。観客がアッと思わせられてしまう瞬間です。パーフェクトな第二幕ジゼルの世界が実現するかどうかは、このフットワークにかかってると言っても過言ではないと思うんですが...

ここんとこの足の動きをきちっと表現し、この世の物とは思えないようなフワーッとした動きを常に再現して、観客を不思議な世界に連れて行ってしまうのは、私の知る限りではサンフランシスコ・バレエのマリア・コチェトコワ(Maria Kochetkova)。





このスナップショットはマリア・コチェトコワがマリンスキーの ティムール・アスケロフ(Timur Askerov)と踊ってるところで(約4分過ぎ頃に)からなんですが、サンフランシスコ・バレエで彼女がジゼルを踊ったときに、何度も見ている動きです。

もちろん、スベトラーナの踊り込んでるジゼル、彼女の優雅で詩情にあふれ、ばっちりとコントロールされた表現で語られるジゼルに、マリア・コチェトコワの語るジゼルを比べるなんてことは十年早いと思うけど、上記の点だけでは、マリアのほうが優れてると私は思います。

ただスベトラーナがセルゲイ・ポルーニン(Sergei Polunin)と踊ったジゼルでは、この動きがちょっと見られるので、もしかして相手役でも決まるところもあるのかも知れませんが(このビデオでは25分目頃に見られる)....

ロバート・ボッレの第二幕でのエントランス、百合の花束を抱えて黒いマントに身を隠して登場するんですけど、これ、本当にボーグ・モーメント VOUGUE MOMENT-ファッション雑誌の見開きページ的にさまになってます。初めてロバート・ボレを見ましたけど、Jeez! 彼はギリシャの神々からも嫉妬されるに違いない、世界の恋人。こういうダンサーが今いて見れる事に感謝。あれだけの体を作って維持し、演技力でストーリを語れる彼にはやはり才能と努力あり。ですからもしかして嫌な奴かもしれないけど、それも許されるなあ。

現在私が是非見たいのはボリショイのデニス・ロドキン。(Denis Rodkin)。ニコライ・ツィスカリーゼの若いときのような全身バネ的存在ではないんですけど、動きが美しく優雅で気品あり。要するに演技力があるんだと思います。この人とスベトラーナの、このビデオのバージョンでの「白鳥の湖」は是非、見て見たいです。