2011年7月5日火曜日

サンフランシスコ・オペラの「ジークフリート」

リング、第3部の「ジークフリート」、第一幕での、三つのナゾナゾの歌もすごくよかったし、舞台デザインと脇役陣がよかったし、第三幕のジークフリートとニナ・シュテメ(ブルンヒルデ)、さらにボタンとのかけあいが、よくできたので、全体で満足、満足のパフォーマンスでした。

よくサンフランシスコ・オペラ公演の脇役で出てる、ディビッド・カンジェロシ(David Cangelosi)がミーメ。ジークフリートより声が伸びるだけじゃなく、注意深く我慢強い、小心者のミーメをうまーく演じる演技力。大きなジャンプで後ろにさがってボタンの様子をみたり、毛糸の帽子を押さえながらダダっと突進する尋常じゃない機敏さ、バスの屋根にするする登って横から降りてくるなど身軽なだけでなく、けっこう危ない動きも平気でやっちゃうんですよ。

上にリンクしてあるディビッドのホームページに行ったら「Out of Closet」というタイトルのブログがありました。この人もゲイかと思って読んだら、以前、サーカスでアクロバットをやってたんですって! 納得! 「どこへ行っても必ず誰かに聞かれるんで、この際、そういう過去をサンフランシスコで告白(Out of Closet)」というわけです! オペラ歌手も、いろいろな「過去の経験」が役に立つんですね。

カーテンコールでも、ニナ・シュテメ、ジークフリートを演じたジェイ・ハンター・モリス(Jay Hunter Morris)の次に大きな拍手をもらってました。


「神々の黄昏」でノルンを演じたロニータ・ミラー(Ronnita Miller)は、「ジークフリート」では、世界の歴史を毎日をつむぐために一日中眠っているエルダ役(歴史は、エルダの夢の中で作られるんだそうです。だから彼女を起こしちゃうと、歴史が止まってしまうわけ)。威厳のある姿勢と声で、ノルンとは違った面を見せてくれました。今でこそ、人間が歴史を作る主役と考えられてますが、ちょっと前までは、神様が歴史を紡ぐと、あちらでは信じられていたんですね。(なお、彼女の歌はビデオクリップに入ってます。)ロニータがダイエットして、ディビッドみたいな動きができるようになったら、重宝がられ、あっちこっちのオペラハウスからおよびがかかるんじゃないかと思いますが。

アルベリヒを演じたゴードン・ホーキンズ(Gordon Hawkins)、去年、「ライン河の黄金」で同じ役を演じたときはパッとしなかったんですが、今年はべリーグー。

ボタンを演じたマーク・デラバン(Mark Delavan)も同様、今年のほうが発音がもっとクリヤーで、伸びて、元気があり、去年より、断然良かったです。

ジークフリートを演じたジェイ・ハンター・モリスは、「神々の黄昏」でジークフリートを演じる、イアン・ストーレイ(Ian Storey)よりよかったです。本当は、モリスは「神々の黄昏」でもジークフリートを演じる予定でした。しかし今年は初日から故障がおこり、医者のすすめで、代役のイアン・ストーレイが「黄昏」のジークフリート役をやってるそうです。

第三幕、ブルンヒルデとジークフリートが出会い、ボタンの約束が実行されるまでを描くんですけど、感情が理性を乗り越えるまでの2人の会話が、ワーグナーの時代のインテリの男女の行動を反映してるようでおもしろいです。

戦士と勘違いしたのが「男じゃない!(この台詞に場内に笑い!)」とわかると、ジークフリートはすやすやと寝ているブルンヒルデ感動し、愛情が芽生えるんですが、100年ぶりに目が覚めたブルンヒルデは「お日さま、こんにちは、光よ、おひさしぶり!」と、もっとマクロなムード。

「ところで、私を起こした英雄はどこ?」と、ボタンの約束を思い出しますが、「今で十分、仲がいいんだから、この関係をこわすような事、する必要ないんじゃない?」とジークフリートに言います。

ジークフリートの欲望はだんだん大きくなって、じりじりと迫るムードになってゆきます。そういうジークフリートをみてるうちに、3テンポぐらい遅れて、ブルンヒルデも興奮してきて、その気になるところで幕を閉じます。

「恐れ」を知らなかった英雄、ジークフリートが、好きな人にまむかって初めて、拒絶されるかもしれないという「恐れ」を抱くというシナリオ、男性優秀社会で、劣である女性を、優である男性と対にするためのコンセプチュアルな仕掛け、「ベーターハーフ」の概念の登場です。まだ新しかったに違いない「ベターハーフ」って考え方をオペラの前面に持ってくるワーグナーって、勇気あるドイツ版「近代人」だったんですね。

概念にもはやりすたりがありますが、「ベターハーフ」は1950年代のアメリカで、また日本でもまじめに語られ、信じられました。だって誰が自分より「劣」なものと関係をもちたいと思うかなー。ちょっとは立場を上げとかないとやる気にならないじゃないですか。

今は女性をベターハーフなんて位置づける必要もありません。女性史的に言うと、まさに「ベイビー、You've come a long way! やっとここまで来たね!」です。

舞台のビデオクリップがタイトルにエンクロージャしてあるので、ビデオを見たい人はタイトルをクリックしてくださいね。

なお来年は、シアトルとメッツで「リング」が行われるようです。

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