一番印象に残ったのはサラマンダー(イモリ)の動き。黒白の縦縞模様のボディスーツで覆われた全身で、首を伸ばしたりかしげたり、フロアの起伏を上がったり下がったりする動きの一つ一つはインパクトありでした。頭髪を含めて顔の作りは不気味なんですけど、サラマンダーの持つパワーと、知的な用心深さ(実際にはイモリってインテリジェンスはあまり感じさせない生物ですけど。失礼、いもりさん)を感じさせる動きでした。そのため、顔が不気味という印象が薄れ、むしろ内に隠れてる知的さの証のように見えてきます。
第二幕でインドネシア楽器の「ガムラン」もしくはガムラン風の音が演奏に加わり、西洋楽器だけの音とは異なった世界、熱帯森林の奥深くに静かにしっかと存在する世界、その由緒正しさと美しさと落ち着きとを感じさせる響きでした。熱帯のジャングルに咲く、肉厚な花弁を持った香り高い花を連想させます。また、さくら姫の踊りのなかにバリ舞踏の動きが入るのがとてもよかったです。なんか心を落ち着かせる動きです。
同じく第二幕だったと思いますが、高齢王様の動きがなんとなく認知症っぽくて、こういうテーマをダンスに取り入れるのって大胆だけども現実的だし、面白いと思いました。別の日に見た友人は「リア王」がイメージの出所じゃないかと言ってました。
確かにこの「パゴダの王子(Prince of Pagoda)」というバレエ、さまざまな音楽や古典を思い起こさせる場面の連続です。例えばさまざまな国から来た王様達がさくら様に求愛する場面は「眠りの森の美女」の王子達の求愛の場面、またサラマンダーがさくら姫を伴って火の国、水の国を通過しながら試練を受けるところはまるで「魔笛」、立ち回り場面はシェークスピアの「ロメオとジュリエット」を思い起こさせます。という意味ではあまりにもいろいろな山場が短い間隔で詰まりすぎてて、慌ただしい感じがしました。もっとすっきりさせた方が踊りを引き立てると思うんですけど。振付けや舞台の作り方を変えるとぐーんと良くなるのかもしれません。舞台上部の大きな花はとくになくてもいい感じ、舞台のふちを額縁風に飾るトゲは意味がわからず、ちょっと目障りでした。
小野綾子さんのさくら姫はストーリーを語れたと思うし、湯川麻美子さんの目力は劇的でよかったです。
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