2011年6月30日木曜日

成田空港のクリームパン

日本を離れる前に、ちょっと寄ってみるのが、成田空港内、出発ロビーの左に続いてるビルにある、お世辞にもきれいとは言えないモール。

理由はいろいろあります。例えば、搭乗する飛行機の種類によって、個人ディスプレイが各座席についてなくて、機内映画が自由に選んで見られなかったり、面白くない映画や見ちゃった映画しかチョイスがなくて、困らないよう、本屋に寄って、ちょっと気になってた本の文庫本版を買っておくため。

ユニクロはさすがに賢い! オープンして一年にならないと思いますが、値段も置いてる物も、まったく外部と一緒なので、日本を離陸する寸前に調達できるので便利。

ここで、どうしても特筆しておきたいのが、「クリームパン」。

エスカレータで空港モールの二階に行き、搭乗チェックインの反対方向へどんどん歩いて行くと、ビルの一番端にある「LAWSON」が見えてきます。主に空港内で働いている人のためのお店なんでしょうが、ここで売ってるのが、とっくに絶滅したと思っていた「クリームパン」。

他にも「あんぱん」とか「メロンパン」とかもしぶとく生き抜いてるようですが、図抜けて美味しいのが、「クリームパン」。メチャ甘でなく、クリームがすごくクリーミーで、パンがソフト。(もち、おにぎり類もあります。)

サンフランシスコの家に到着するのが、午前11時頃、ちょうどおなかのすく時間。そこでおもむろにクリームパンを取り出し、パクッとやると、クリーミーなクリームがゆっくり、トローリと噛み口から流れてくる... 

子供の時はクリームが不味くて目も向けない食べ物の一つだったんですが、他の簡単に食べられる食品との競争に打ち勝つために、驚くべき進化を遂げたのが、この、一個105円のクリームパン、クリームの質もパンの質も、今は昔とダンチです。

よく知ってる日本人友達のお土産にすると、以外に喜ばれます。

2011年6月20日月曜日

江古田駅とパクストンゲートの縦型庭園

今、東京に来てるんですけど、西武線江古田駅、駅外観と周辺が、去年の三倍以上、良くなってました。駅の構外の外壁に、約50センチ四方のプラスチックのメッシュが、数十枚、縦横に取り付けてあるんです。

このメッシュ、ただのメッシュではなくて、さまざまな植物を各メッシュに植えこむと、根をはって成長できるようになってます。

つまり構外外壁に縦型庭園が出現。グリーンが一杯、加えて人の通行スペースが広くなって、狭い江古田駅のイメージを一新。

縦型空中庭園はサンフランシスコのバレンシア通りのパクストンゲート(Paxton Gate)にもあります。パクストンゲートのは、枠が木製で、屋外の外壁に取り付けられた空中本箱のよう。ノスタルジーをさそう空中庭園ですが、江古田駅のは、モダンでメインテナンスがやりやすそう。
写真:パクストンゲートの奥庭ビルの外壁上に設けられた縦型庭園

写真は両方とも高解像度なので、クリックして大きくすると細部までよく見られます。

2011年6月13日月曜日

ピカソとステイン・コレクション = シリコンバレー論

「どうしてピカソは、あんなような絵を描くようになったの?」と、前から不思議に思ってたんですが、サンフランシスコ近代美術館でオープン中のステイン・コレクション展(Steins Collect)で、この謎が解けた!

ゲルトルート・ステインは、オークランドで少女時代を過ごした作家。サンフランシスコ市電事業で成功したステイン家の長女だった彼女は、大学卒業後、仲の良かったお兄さんのレオとヨーロッパへ行き、パリに住み着きます。

1904年から、絵好きの二人は絵を購入しはじめます。マチスが展覧会に出品して大ヒンシュクを買った「帽子をかぶった女」を、「素晴らしい!」と購入。
写真: 帽子をかぶった女

以降、今こそ「印象派」と呼ばれ、人気を呼んでいますが、当時はあまり評価されてなかった、マチス、ルノアール、ボナード、セザンヌなどの絵を次々と購入。ピカソと知り合った後は、特にゲルトルートが、ピカソの絵購入の比重を増していきます。

レオとゲルトルートのコレクションは静かな評判を呼ぶようになり、世界中からの問い合わせが相次いだため、毎週土曜日に、アパートを一般公開するようになります。レオとゲルトルートは別居を構えてからも作品を収集しつづけ、このように集められたスタイン家の絵をサンフランシスコに再集合させたのが、今回のステイン・コレクション展。

この展覧会、見応え有りますが、ピカソの絵が年月を経てどのように変化してゆくのかを見せてるのも面白いところ。

ピカソはゲルトルートのところで初めてマチスの「帽子をかぶった女(Woman with a hat)」を見て、激しいショックを受けます。そして「ボクの方がマチスより絵は上手。マチスとは反対のことをやる」と、茶系統の色ばかりを使った絵を描きはじめます。画家名がついてなかったら、すぐにはピカソの作品とは思えないものばかり。

ピカソは歌麿や北斎の絵にも影響を受け、着物ならず、ドレスを引きずる猫背の女性を「スープ」という作品で描いたりします。

1907年にマチスが描いた「青い裸婦(Blue Nude)」は、ピカソに(帽子の女が驚きが右パンチなら)左パンチをかませます。伝統的なヌードとはぜんぜんちがう、「乱暴」な体のフォームにショックを受けたのかもしれません。

ある日、ゲルトルートのアパートへ向かう途中、マチスは古道具屋さんのウィンドウのアフリカ民芸品に目を留めます。「面白い形だなー」とさっそく購入し、アパートへ着くと、そこにはピカソが。二人は人形の奇妙な形についてディスカッションを始めます。

その後に描かれたのがピカソの「眠る女」。ピカソ的なこの絵、明らかに、アフリカ民芸品像特有のデフォルメの影響が見られるじゃありませんか。
写真: 眠る女 (1907)

ピカソは、きっと、学生の頃から「新しい何か」を模索していたのだと思います。そしてマチスや日本の版画師やアフリカの民族美術に出会ううちに、伝統的ヨーロッパのフォームが絶対的な、唯一の美のフォームでないことに目覚めたんだと思います。それが彼を「こうじゃなくちゃいけない」という内的抑制から解き放し、「自分の好きなフォームならそれでいい」という方向へ歩ませたんだと思います。

余談ですが、そういう意味じゃ、シリコンバレーも同じ。シリコンバレーには世界中の人が集まっています。アメリカ人やインド人や中国人と一緒に働いているうちに、「ああ、そういう見方もあるのか。」そして自分の発想が日本というローカルな場で育まれ、形成された「反応回路」というか、「道順」を経て生まれてきたものであることに、それこそ「ある日突然」、わりとあっけらかんに気づきます。

考え方の「道順」も人間の作った文化の一つ、ですからいつでも変えられるもの。こんな当たり前のことにどうして今まで気づかなかったの?!

日本で育くまれた発想は、良きも悪くも自分の考え方の原点。そこに何かを自由に結びつけたり、「道順」を変えられる可能性に目覚めさせるのが他文化。他文化は、自分の中に(必然的に学習で)形成された考え方の「回路」を変えて、自由に組立てる「契機」を与えます。

それはインド人も中国人も同様、彼ら独特の「文化」があるということは、その中で形成された独特の「反応回路」があるということでしょう。シリコンバレーは、いろいろな考え方の回路がぶつかるところ。そしてまた壊れるところでもあります。だから新しい発想が生まれやすいんだと思います。

この展覧会、9月の半ばまでオープンの予定です。なお、ここでリンクしてる絵は、この展覧会で全部見られます。

2011年6月7日火曜日

サンフランシスコ・オペラの「神々の黄昏」

休憩を入れて全部で5時間15分、リング・シリーズ中の最長のオペラなんですが、いつのまにか経ってしまう時間でした。

ニナ・シュテンメ(Nina Stemme)のブルンヒルデを聞いてすごいと思ったのが、去年の6月。今回は、長いオペラのせいか、もしくは他の出演者に合わせるためかはわかりませんが、第一幕では、力をセーブしている感じ。しかし第三幕は実力で臨み、他のキャストの追従を許しません。

悪役、アルドリッヒの息子、ハーゲンを演じたアンドリア・シルベストレリ(Andrea Silvestrelli)。誰よりも大きな声なんですが、声の質があまりにのどかで牧歌的。悪者をあやつろうとする、最大の悪玉という感じがしません。こういうキャースティングはなんとなく釈然としません。

始めざわざわしていた観客席も、第二幕ではストーリーに熱中して、座席が静まり返ります。

最初に登場して、今までのあらすじを語るノルンを演じた、ちょっと太りすぎのロニータ・ミラー(Ronnita Miller)とダベダ・カラナス(Daveda Karanas)がよかったです。舞台の前面で歌ってたので、声が聞きやすいせいかも。

今回のリング・シリーズでは、環境破壊をものともせず、自分たちの利益を追求し、戦争にも介入するビッグ・コーポレーションが悪役という設定(それをあやつるのがハーゲン)。神々ばっかりが山の頂にでてくるよりも、こういう設定の方がわかりやすくて、面白いと思います。でも半分以上の聴衆は、こんな現代的解釈に抵抗を感じてると思います。ま、ともかく席の塞がり具合から判断すると、券の売れ行きは良さそう。

一番わかりやすくて身近な舞台設定は、3人の水のニンフが住むライン河。車のタイヤ等の粗大ゴミが散在する河畔、川底や岸には、空のペットボトルの山が。そこへプラスチックの袋を持った三人のニンフがゴミ拾いにやってきます。金(ラインゴールド)を守っていた頃の美しい河を思い出し、嘆きながら歌います。

オーケストラは素晴らしかったです。サンフランシスコ・オペラ交響楽団の元アート・ディレクターのラナクルが指揮。サンフランシスコではすごい人気の彼、私も大好きです。なぜオペラ座を離れたのかはちょっと疑問。

なんとなく不安を呼び起こし、終りも初めも無く繰り返し浜に打ち上がる波のようなこの曲、ワーグナーの作曲家としてのすごさというか、現代性を感じさせます。

なおリンクを付けておいたので、タイトルをクリックすると、ビデオクリップが見られます。

2011年6月2日木曜日

ロイヤル・バレエの「不思議の国のアリス」

イギリスのロイヤル・バレエが「不思議の国のアリス」を今春、発表しました。

お話の中に「チェシャ猫」というのが出てくるんですが、この猫、ニタッって笑うので有名。

このチェシャ猫が、ロイヤル・バレエ版のアリスにもでてきます。チェシャ猫を舞台用に工夫し、舞台に出すまでを描いた面白いビデオがあるので、リンクしておきます。

また実際の舞台でのチェシャ猫とアリスの場面のビデオもリンクしておきます。音楽もぴったり!

両方見ると、魅力的で、不思議で、ワクワクするような、ロイヤル・バレエ版の「不思議の国のアリス」を見たくなってしまいます。