2010年6月21日月曜日

ワーグナーのヴァルキューレ、What a DRAMA!

サンフランシスコ・オペラ、夏のシーズンの2作目は、ワーグナーの「ヴァルキューレ」。

クリストファー・ベントリス(Christopher Ventris)とエヴァーマリア・ウェストブルク(Eva-Maria Westbroek)が演じる、シグモンド(逃亡者)とシグリンデ(不幸な人妻)の出会いから始まるんですが、二人の最初の歌の掛け合いで、オペラのサクセスは、8割がた確定。

(初日のパフォーマンスは、こちらのビデオクリップで見られます。)

シグモンドとシグリンデは結ばれるのですが、同時に昔、離ればなれになった双子という、運命の絆も発見します。

ところで、開演直前に、「ブリュンヒルデを演じる、ニーナ・シュテンメが風邪で調子が悪いので...」という場内放送が流れたとき、劇場内に、がっかりの大きなどよめき。「でも、風邪を押して出演することになりましたので、ご了承ください。」 場内拍手!

(写真:ニーナ・シュテンメのブリュンヒルデ。San Francisco Chronicleから。サンフランシスコ・オペラのヴァルキューレの写真は、全部で7枚、こちらへ行くと見られます。)

これが本調子じゃないなら、本調子の時はいったい、どんななんだ! 最初から最後まで、声のぶれとかずれがなく、(多分正しい)発声法を保ち、徹底的に、力強く歌ってゆく力。

彼女はスエーデン人なんですが、ヨーロッパのオペラの伝統の中で育くまれた歌手と、アメリカの歌手との違いを感じます。

ニーナは、2011年の夏のオペラ、「リング」シリーズで戻ってくる予定なので、楽しみです。

第三幕に、ヴォタン(ギリシャ神話のゼウスのドイツ版と考えてください)の娘たちが8人集まって歌うところがあるんですが、このあたりから二流の歌手が出るんじゃないかと思っていたら、ほとんど皆、実力派だったので、4時間近くの大河ドラマ、最初から最後まで、十分に楽しみました。

ところで、ヴァルキューレ(リングの第二部)ですが、日本風に言うと、古事記や民話や言い伝えが混じってできた話。

不倫と近親相姦は許せない、という結婚の女神の訴えにより、ヴォタンは渋々、最愛の娘、ブリュンヒルデを送って、シグモンドを、罰として殺そうとします。しかし、シグモンドのシグリンデ(ビデオでは緑のドレス)に対する愛の深さに、心を動かされたブリュンヒルデは、命を助けてしまいます。

そして姉妹たちにシグリンデを引き合わせ、「この人は子を宿してます。その子の名はジークフリード、いずれ、世界を救う、英雄中の英雄になるはず」と予言し、母親を託します。

娘の裏切りに怒ったヴォタン(ビデオ内では黒い片眼鏡)は、シグモンドを即座に殺した後、罰として娘に、「お前から神の力を剥奪し、眠らせよう。最初にお前を起こした男がお前の夫、たとえどんな奴でも、そいつのいいなりになるがよい!」

ブリュンヒルデは父神に、「私は、あなたの理性ではなく、感情が願っていた事を実行して、シグモンドを助けただけ。どうせ誰かのものになるなら、私に相応しい、英雄にして」と懇願。

娘を哀れに思ったヴォタンは、ブリュンヒルデの眠る岩のまわりを、神の火で囲い、その火を超えることのできる英雄が彼女の夫になることを約束します。

ヴァルキューレの中では触れてませんが、話のいきさつ上、人間となったブリュンヒルデの、将来の夫は、英雄中の英雄、まだ生まれてない、ジークフリードであることが示唆されます。

ところで、双子のシグモンデとシグリンデは、神、ヴォタンの、人間の息子と娘。ですから、ブリュンヒルデも、長い眠りの後に、血族結婚することになります。でもこの話は、リングシリーズ、第三部の、「ジークフリード」のお楽しみとしておきます。

こういうヨーロッパの昔話に、「眠りの森の美女」の話の原型があるんですね。

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