2008年9月28日日曜日

サンフランシスコ オペラ: 死の都 Die Tote Stadt

サンフランシスコオペラ、2008年、秋のシーズンが始まりました。「シモン ボッカネグラ」と新オペラ、「骨接師の娘(これもよかったです。 リベレットはエイミー・タン)」をやってるんですが、今週始まった、「ディ・トーテ・シュッタト」が、結構、面白くって喜んでます。

ドイツ語は知りませんが、タイトルが「死の都」という意味らしいのを今知ってちょっとびっくりしてます。

散らかって殺伐とした、主人公のポールの部屋が舞台。汚い舞台ものは、歌力+舞台上での生きたパッションの交換がないと、二重(自分の住処を見に来たんじゃないよ)につまらなくなりますが、両方とも有りで、今シーズンのベスト。



写真 ビショップが横に抱えてるのが、ガラスのケースに入っている亡妻マリーの金髪。真ん中のシルエットがポール。手前がマリアッタ。坊主頭に注目。:(http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2008/09/25/DDBM1349II.DTL)

不気味な場面: 亡妻の金髪

ポールが亡妻マリーの形見の長い金髪をなでていると、マリーの(声だけの)亡霊が出てきます。彼女とよく似たマリアッタがポールを訪問して帰ったその夜の出来事です。

「あなたは私を裏切ったりしてないでしょう。」
「そんなことがあるわけないだろう。本当に愛しているのは君だけだ。」...

「そうね... 私が残していったその髪がこの家の見張りを続けるわ。」

異様な会話なんですが、マリーの声が美しく、優しく、ゆっくりとしてるので、なるほどと思いながら聞いてしまいますが、不気味でオカルトチック。

マリーとマリアッタの両役を演じているのがエミリー・マギー(Emily Magee)。ヨーロッパで活躍しているアメリカンソプラノですが、舞台上で他のアクターとエモーショナルに連らなれるし、いい声の持ち主です。

出演者全員、なかなかよく歌ってます。


不思議なアリア: けだるいような、透明のような、不透明のような、でも不思議な魅力が...

マリアもポールもピエロも、違った場面で、このアリアを歌います。
でも、歌詞は異なってます。
深く埋もれて忘れ去られてしまった記憶に、呼びかけるようなメロディー。



(写真上:マリアッタ。写真下: ピエロ:http://sfopera.com/o/266.asp)

最後まで見てると、このオペラの大半が、夢の中で起こった出来事を描いているというのがわかります。だからこういうメロディーなんだなと、このアリアがハタと理解できます。眠っている人の頭脳内のメモリーに、直接呼びかけるようなメロディー、こんな曲を創れる作曲者ってすごいねっと思いました。

「ホフマン物語」の中でミューズが歌う、あの歌に、雰囲気がよく似てます。



オペラの筋はこちらでどうぞ

ビデオクリップを見つけたので追加します。

2008年9月11日木曜日

お勧め!  チヒューリの展覧会

ゴールデンゲートパークのデ・ヤング・ミュージアムで行われている、チヒューリ(Dale Chihuly)のガラスの展覧会は、もう Highlyお勧めです!

もともと手製のガラスのお皿とかグラスや花瓶なんか好きなんですが、チヒュリーの作品は、食器とか花瓶などの工芸の世界から、造形と幻想の世界に、ある日に踏み入り、以来そこにとどまっているという感じです。

チヒュリーの幻想の世界へは、縮小に開発の主眼がおかれているテクノロジーの世界とは逆方向というか。

チヒュリーの幻想の世界に入ってゆくと、まわりの物がだんだん大きくなり、私たちのサイズが小さくなってゆくような錯覚にとらわれます。気がつくと、いつのまにか、深海の底を散歩していて、ジェリーフィッシュ(くらげ)が頭の上を泳いでいくのを見上げるような感覚になったり、海底のいろいろな生物を、私たちが、安全な距離圏から見ているような気がしてきます。また、「今、ハイキングしているのは、スーパーマンの生まれ故郷の惑星だったんだな」って思うような作品もあります。



この陽気な作品を、私は「宝船」と呼んでます。これだけで8畳間がいっぱいになる大きさです。(www.chihuly.com)

チヒューリの作品の一部は、プレシデオの隣のリンカーバークにある、リージョン・オブ・オナーにも展示されてます。(下)左に背中が見えるのは、世界に三つあるオリジナルの一つである、ロダンの「考える人」です。




デ・ヤングに展示されている作品の一部は、ここで見られます

9月28日までです。

2008年9月7日日曜日

ワインでしめくくりたい、アンジェラ ゲオルギューのリサイタル


ワインがないので、ビールを飲んでるが、アンジェラ ゲオルギュー (Angela Gheorghiu) を聞いたあとは、冷えたワインで、しめくくりたかった...

バークレーのゼラバックホールでのリサイタルから戻ってきたところ。今夜はサンフランシスコにしては湿度が高めで、蒸し暑い...

最初の曲は、「ラ・ロンディーナ」で、主役のマグダが最初に歌うアリア。去年、このアリアの最初の一声で、彼女は、サンフランシスコのオペラファン(下の写真 www.angelagheorghiu.com)を魅了、私も彼女に征服されてしまった一人です。

声量もすごいけど、そのコントロールもすごい。息をそっと吹くように始まった歌声が、あれよあれよという間にしだいに大きくなり、いつのまにか、オペラハウスの巨大なドーム(空間)を満杯にしてしまったのです。



葡萄がスローモーション風に発酵して、樽の栓をふっとばし、部屋中を香りで満たしてしまうという感じ。私は、その晩、完全に酔っぱらいました。

そういうわけで、彼女の今回のリサイタルを心待ちにしていたのです。

ロンディーナの後は、プッチーニの「ある晴れた日に」とバルディの曲を前半に歌った。ガラス玉(まさかダイヤじゃないでしょう)が数珠つなぎになった、左右、二本づつのストラップが途中で絡まり、バストの割れ目を隠すような隠さないような。短めのボディスから、たっぷりの薄めの真っ白なドレスが、ふわり、ふわりと広がる。こんなデザインだと、以外と胸がめだたないので、「純白無垢」っぽいイメージ。

休憩後は、トップの写真(www.angelagheorghiu.com)とちょっと似ているが、袖つきの真っ黒なタイトなドレスで、小曲を2つ。このあたりから、リラックスしてきて、彼女のパーソナリティがでてきた。これがリサイタルの面白いところでしょう。

3度目に舞台に出てきたとき、観客の「一部」から、「ああっ(Gasp)」というどよめきが起こった。彼女が、真っ赤なドレスで出てきたのだ。3回も着替えをするなんて予想外でした。

このギャスプが気に入ったのか、すっかりリラックスして、踊りながら歌ったり、観客がルーマニア語で(多分)リクエストしたりで、アンコールには「ゴンドラの歌」を含めて3曲も歌った。彼女は赤い色がよく似合うんですね。

ファッション雑誌、ボーグも、彼女をモデルにした特集を組んだ事があるアンジェラ ゲオルギューは、プロとして、今が油ののり時と言えるのではないでしょうか。

私の前に坐っていた年寄り夫婦は、いい度胸。でっかいカメラで公演中、こそこそと撮影してたので、youtubeに行けば、既にビデオクリップがアップロードされてるかも。

このサイトへ行くと、彼女の写真(Gallery)やサウンドクリップが聞けます。

ところで、「ラ・ロンディーナ」はフランス語で「つばめ」。平塚雷鳥が年下の恋人のことを「若いつばめ」と呼んだことから有名になった表現ですけど、多分、ロンディーナの話から生まれたのだと思います。

追記(2012年9月)サンフランシスコ・オペラで上演したアンジェラ・ゲオルギュの「ツバメ(ラ・ロンディーナ)」がyoutubeにアップロードされてるので、リンクしておきます